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§4. Paradigm 理論の一断章paradigm とは、元々ギリシャ語で「模範」、「モデル」を意味し、広くこの意味で使われる。これが転じて、ラテン語などの語形活用の模範例も意味する。例えば、「書かない-書きます-書く-書けば-書け」は、「蹴る」、「ある」、「死ぬ」などを活用させる際の型(五段活用)を作る故にパラダイムである。具体的な語形活用を暗記することで語学が習得されると云うモデルから、通常、科学者が当該専門領域を研究するに当って、学習し、モデルとするべき業績、特に当該領域を専門とする集団において共有される業績をパラダイムと呼んだ。ここで、概念、法則、理論よりも、その具体的な科学的業績を優先させていることに注意。 §1でも述べたように、 The Structure of Scientific Revolution でパラダイム (paradigm) は様々な定義が成されている。ここでは次のものを採用する。
これらは、簡潔な定義であるが、具体性に欠ける。更に、本文中でのパラダイムの用法には、具体的、個別的な論文に帰着できるような「業績」ではない、「科学者集団に共有されているなにか」を指している場合が多い。このような事情を鑑み、第二版で増補された Postscript-1969 では、「パラダイム」の概念を構成する要素を分析し、その要素の集合として、改めて「パラダイム」と云う概念を定義し直している。そして、それを「パラダイム」と云う語に変えて、 "disciplinary matrix" と呼ぶように提唱しており、この行列要素の一つである「模範的な業績の集合」は、 "exemplars" と呼んで、他の要素である、価値観、信念、記号的一般化などと区別するように提唱している。 "disciplinary matrix" は、 the constellation of group commitment として scientific community の社会的領域に浮上する。即ち、ある分野に属する専門家の集団が共有している前提を諸要素とする集合である。 その具体的要素は次のようなものである;
これらの constellation of group commitment のなかで、見本となる過去の業績としての shared examples 、ある分野に属する専門家の集団が共有している具体的な問題、解答例を、 exemplars と呼び、これが本質的であると云う。 Kuhn の最初の着想はこれである。 "disciplinary matrix" と言い換えても、本文中のパラダイムの概念を変えたわけではなく、より具体的に分析し、「諸要素の集合」であることを強調したものである。 "paradigms" と云う語を放棄し、再考させたのは、コンピュータ・再演ティストである マーガレット・マスターマン による批判に答えてのことだった。彼女は、『構造』のなかで「パラダイム」と云う語は21通りに定義されており、大きく分けると三つのグループに分類できると主張した;
この分析は、或るシンポジウムでのクーン対ポパー派の討論において成されたものである(I. ラカトシュ、A. マスグレーヴ編:批判と知識の成長 森博監訳、木鐸社、1985)。 何れにせよ、 Kuhn は、このように定義されたパラダイムに従う累積的で偏執的な研究を通常科学 (normal science) と呼び、既存のパラダイムが危うくなり、それに取って代わるべき新たなものが模索される批判的研究活動を異常科学 (extraordinary science) と呼ぶ。研究者は、通常科学的探求心と、異常科学的批判精神との間の本質的緊張 (essential tension) に耐えつつ既存のパラダイムを拡張、補完すべく努力し、その累積的成果がパラダイム自身を脅かす時、異常科学的状況が現れ、その結果として既存のパラダイムに取って代わる新たなパラダイムが浮上すれば、これが科学革命 (scientific revolution) であると説く。 Contents | |
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