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アルストテレス自然学

アリストテレス(Aristoteles,B.C.384〜B.C.322)は万学の祖と云われ、現代で云う生物学、政治行動、論理学などに高い洞察力、分析力を見せ、中世キリスト教神学の理論母型となった。特に、16世紀の科学革命以降生ずる古典物理学の範疇は、自然学として論じられている。

現実主義

その原理は、実経験に基いた、現象の総体的理解である。まず、「元々経験に無いものは知性にも無い」と考え、万物の実体は経験的に把握される個々の事物であるする。而して、プラトンによる、「世界の背後のイデア(idea)が永遠不変の真の実在であり、現実の事物はその不完全な模造に過ぎず、偶然的な現れに過ぎない」とするイデア説を退ける。この意味で、プラトンは理想主義であり、アリストテレスは現実主義であるといえる。

経験事実を重要視することから、数学は経験からもっとも離れているが故に、自然を理解する方法としては退けられる。また、経験事実に直接相応する、現象の全面的理解を求める為に、「重さ」や「位置」に現象を抽象する事も無意味とみなされる。解明されるべき問題は、「如何に」ではなく、「何故に」である。また、アリストテレスは、生物学の経験から、自然学も分類で考えようとした傾向があるとも見られる。

何れにせよ、例えば、距離と時間を考えるにしても、 L = V・T と云う式によって「速度」 V を定義すること自体が許されない。なんとなれば、概念(次元)の異なる量が、等号の左右に現れているからである。距離 L と時間 T は明らかに異なる概念に属する為に、これらが一つの等式中に現れる事自体が、推論と事実の混同であるとして、厳しく戒められたのである。

とは云っても、やがて「何故に」を問う事に疲れた自然哲学者らは、「如何に」の探求に緩やかにシフトして行き、 K. プトレマイオス(三世紀中頃) の頃にはプラトンまで遡る幾何学が利用されていた。プトレマイオスが大成した天文学における数学的テクニックを十分利用して地動説を唱え、十七世紀科学革命の契機となったのが N. コペルニクス(1473〜1543) であり、自然学に数学の利用を積極的に推奨して、これを科学における当然の手法まで引き上げ、機械論的自然観を大成したのが R. デカルト(1596〜1650) である。

存在論

アリストテレスにおいては、実体は次の四つのものについて用いられる;

  1. 本質、或は、それがそもそもなんであるか
  2. 不変的なもの
  3. 基体
    1. 質料
    2. 形相
    3. 両者から成るもの(具体的個物)

万物は、遍在する無規定の質料(hyle)に内在した形相(eidos)に応じて固有的に実現すると考え、質料を可能態(dynamis)と呼び、これに形相が内在する事で現れた個々の事物を現実態(energeia)と呼んだ。

例えば、木の種子は可能態において木であり、成熟した木は現実態において木であり、種子の目的因が木であったことが、成熟した暁に知れる。即ち、種子は、成熟した木が現実態として持っているものを、可能態において持っているのである。また、工房の材木は、可能態において食卓であり、椅子であり、机である。このように、形相は、個物(質料)が変化の過程で獲得し、現実化していくものと云うことになる。

アリストテレスはこのような主張の下で、本質、或は形相が実体であると結論付ける傾向がある。何れにせよ、プラトンのような、個物を超えて存在するイデアではなく、個物に内在するものとして実体を捉えた所がアリストテレス的な存在論の傾向であると云える。また、「事実存在」(ト・ホテイ・エスティン)と「本質存在」(ト・ホ・エスティン)を明確に分けて考えたのもアリストテレスであった。

これはアリストテレスの『形而上学』における存在論であり、九世紀から十五世紀にかけてのキリスト教哲学であるスコラ哲学に継承され、後に二十世紀に至るまで西洋哲学を縛り続けた「形而上学」の基盤を固めてしまった。

目的論的自然観

アリストテレスは、「第一の原理=原因」を研究する理論的な学として自身の哲学を主張した。それによれば、原因には次の四種類がある;

  1. 質料因
  2. 形相因
  3. 運動因
  4. 目的因

例えば人は、質料因を母から与えられる。形相因は種差であり、人間の場合は理性がこれに当る。運動因は父から与えられ、目的因は成長の終局点である大人である。アリストテレスにおいては、全ての現象が、以上四つの原因に基いて理解されるべきであるとされる。

この時、地上の運動の本質は、形相に従った、可能態から現実態への変化であり、それ以外の変化は、他の事物(起動者)との接触による強制的変化である。例えば、石が落下するのは、地球の中心に向う本性に従うが故であり、目的因は地球の中心に静止することである。放った石が運動するのは空気に押されるが故であり、天体が落ちてこないのは、天上は第五元素であるエーテルよりなり、始まりも終わりも無い完全な運動である円運動をしているからとして説明される。

アリストテレス宇宙論

天体は永遠に運動しており、地上の物体は時に運動し、また時に静止している。運動すると云うことは可能態にあると云うことであり、運動させる原因(起動者)は現実態にあらねばならない。例えば、他のものを熱する為には、それ自体が現実に熱くなければならない。火は火に、水は水に引き寄せられ、軽いものは上へ、重いものは下へ向う本性を有していると説かれる(ここでは、宇宙の中心に地球が静止しており、その中心方向として、上下が絶対的な尺度として考えられていた。)。

宇宙全体の運動の始源が存在せねばならず、この第一の起動者は、不動であり、純粋な現実態でなければならない。アリストテレスによれば、この「不動の起動者」(ト・アキネート・キヌーン)が運動を起こすのは、運動因としてではなく、目的因としてであり、不動の起動者を欲求と愛の対象とすることによって、宇宙が運動するのである。この最高、最善であるが故に愛される存在は、「思惟」(ノエーシス)であり、最高であるが故に、その思惟の対象も最善であり、最も優れているもの、即ち自己自身である。したがって、不動の起動者である思惟は、「思惟の思惟」である。

自己自身を思惟の対象としている永遠の思惟活動である神を希求して、第一の天界である恒星天球が、始まりも終わりも無い完全な運動である円運動を起こし、継いで諸惑星天球も運動を起こす。このようにして、アリストテレスにおける宇宙は、意味に満ちた閉じた宇宙=コスモスを成し、「思惟の思惟」たる神は宇宙論的な神になるのである。

アリストテレス自然学においては、万物の本質は、個々の物質に内在した形相=質であるから、物体の離合集散と愛憎、自由落下と人の成長は区別されないのである。

アリストテレス自然学は、経験的事実に訴えた、認識される現象全体の、全面的、総体的理解として提示されていた為に、その理解の枠組みの中では十分に合理的であり、その継承者達には疑われるよりも確信されていた。

アリストテレス自然学の世界観は、今日目的論的自然観と呼ばれる。

十七世紀科学革命への流れ

形式的には、十七世紀科学革命は次のように展開していく。

  1. コペルニクス(Nicolaus Copernicus, 1473〜1543) が地球を惑星天球の間に置き、代わりに太陽をその中心に据えたことによって、アリストテレスの理論に対する疑いと、自然学全体に対すると惑いが芽生え、
  2. ケプラー(Johannes Kepler, 1571〜1630) によって円運動の神話が崩れ、代わりに太陽を一つの焦点とする楕円軌道が提示され、
  3. ベーコン(Fransi Bacon, 1561-1626) によって、帰納主義的な実験科学の方法論が提示され、自然学が独自の専門科目として整備され始め、
  4. ガリレオ(Galileo Galilei, 1564〜1642) によって、実際に実験事実の数学的記述の伝統、力学的自然観が普及することで、アリストテレス自然学との決別が進行し、
  5. デカルト(René Decartes, 1596〜1650) によって、自然の数量化と機械論的自然観が提示され、
  6. ホイヘンス(Christian Huygens, 1629-1695)ニュートン(Isaac Newton, 1642-1727)ライプニッツ(Gottofried Wilhelm Leipniz, 1646〜1716) らによって、自然学は高度に数学を利用した、精密な専門科学として急速に発展して行くのである。
< 17世紀科学革命の主要年表 >
年号人名件名
1543コペルニクス『天球の回転に付いて』(1543)
1584ブルーノ『無限、宇宙と諸世界について』(1584)
1609ケプラー『新天文学』(1609)、『世界の調和』(1619)
1618ベーコン『大いなる再興』(1618)、『新論理学』(1620)、『新アトランティス』(1627)
1632ガリレオ『天文対話』(1632)、『偽金鑑識官』(1622)、『星界からの報告』、『新科学論議』(1637/38)
1637デカルト『方法序説及び三試論』(1637)、『哲学原理』(1644)
1673ホイヘンス『振り子時計』(1673)、『光についての論考』
1687ニュートン『プリンキピア』(1687)、『光学』
1686ライプニッツ

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SUGAI, Manabu.
13th/Mar./2000
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